サーチ広告はGoogleだけのものではなくなった。TwitterやFacebookによるサーチ広告への逆襲
スポンサードサーチ広告は、とても人気がある広告手法だ。検索エンジンを提供するYahoo!やGoogleは、サーチ広告では絶対的に有利な立場を維持している。しかし、検索キーワードによる顧客ターゲティングという手法はあるものの、これによって消費者が心を動かし、何かを購入するに至らしめるかといったらそうではない。消費者を「説得」することまで出来るようなものではないという限界がある。
ごく簡単なマーケティングファネルを示すと、大きく分けて「需要の顕在化」過程と「検索」過程に分かれる。
初めの需要顕在化の段階では商品認知の向上と、ブランドの創造にある。需要の創出にはより多くの広告ビューが必要となる。そして、クリック後のコンバージョンやスピーディな対応というよりも消費者の受容を変えることが目的になる。
コカコーラのバナー広告や、ツイッター上の漂白剤の販促ツイート、来月公開される映画の広告がフェイスブックに掲載されている場面などを想像してみて欲しい。それらは消費者の脳裏に残るような広告であり、その場で購入を決定することなく後日必要な時に思い出す場合が多い。そしてそれらの広告は、消費者の興味と属性(性別年代等)に基づいて出されているターゲット広告だ。
検索の段階では、消費者が何かを必要としているから検索行動を起こすのであるから、商品の購入ページやお申込フォームに関連付いた広告やリンクが必要になる。
誰かがグーグルやヤフーで「カメラ 安い」と検索した場合、明らかにこの消費者はカメラを購入しようと既に決心している状態にあるものと言える。だから家電製品チェーン店のオンラインショップに送客できるのであれば、そこで購入を決定する確率は高まるであろう。また「港区 弁護士」と検索した場合であっても、法律事務所の広告がそのタイミングで表示されていれば、クリックされて面会予約となる可能性が高まるであろう。
これらの行動を起こしている間、消費者は何かを購入するという心理状態にある訳であるから、この広告枠は必然的に高価になる。
最近までは、FacebookやTwitterはこうした購入に至るまでのプロセスの前段階までに留まり、直接お金を生み出すものではないと考えられてきたが、最近は少しずつSNS側の広告の影響力が大きくなってきており、プロセスに変化が出てきている兆候が見られる。
TwitterやFacebookには従来型の検索エンジンには無い消費者の本音ベースでの興味関心や検索閲覧データが山のようにあるためだ。
Twitterが2013年4月17日発表したキーワード広告による顧客ターゲティングがある。この手法によると、ユーザーの現在地情報と使用デバイスの種別、性別に応じて広告が出せるサービスだ。ユーザーが直近でツイートしたキーワードに応じて広告が出し分けられ、リツイート等により興味を持ったら近くのショップの広告が表示される仕組みとなっている。
コーヒーの「latte」というキーワードを広告主が指定した場合、近くのバリスタコーヒーの広告がユーザーのタイムライン上に表示される。
ツイッターのキーワード広告は、フォローしているユーザーに基づく広告よりも、より購入意向に近いものだ。なぜなら自分自身が興味関心のあるキーワードをツイートしているからである。
気になるミュージシャンについての話題をツイート・リツイートしている場合、そのユーザーのロケーションに一番近いコンサートの広告が表示されたらどうしてもクリックしてしまいたくなるであろう。「○○」というアーティストのコンサートに「行きたい」というツイートは正にターゲットそのものに宛てた広告そのものと言えるのではないだろうか。
こうした意味では検索エンジンよりもツイートワードによる広告表示が、購入ファネル上では、より購入意向に近い位置になる。
Facebookは、「サーチタイプアヘッド広告」という手法を開発した。ユーザーがFacebook上で検索の際にアプリ、場所、ブランド等の文字をタイプ入力すると、入力に合わせてリアルタイムに広告が表示されるというものだ。例えば、ゲームの名称を入力すると、その途端に同じ名前のゲームの広告が出てくる。
筆者がFacebook検索窓で「cornetto」とタイプした場合に出たポップアップ
しかしながら、これはFacebookの広告アプローチのほんの序章に過ぎない。グラフ検索機能も近日リリース予定であり、米では既にベータ版が提供されている。グラフ検索機能とは何かと言うと、現在の検索機能は友達やFacebookページ、アプリやスポットの検索などに限られているが、このグラフ検索を利用すると、自分と同じ趣味を持つ人を探したり、近くに住んでいて独身の異性を探す、といった自分とのつながりのある人などを検索できるようになるものだ。
自分を起点に検索する訳であるから、プロフィールに登録した学歴、勤務先、電話番号、生まれた場所、現住所、誕生日、「いいね!」ページ、友達のコメント、写真といった情報が参照先になる。リアルでの友人同士といったクローズドな環境から、より広範囲に知らない人同士で新たに知り合う機会が大きく増えることになりそうだ。
Facebookはまた、同時に「Yelp」(イェルプとは食べログのようなサービス)にもモバイルページを登録しており、近所のレストランや場所、メニュー、開店・閉店時間など、ユーザーの位置情報とリアルへの送客に関連した動きも見せ始めている。想像にすぎないかもしれないが、Facebookのグラフ検索機能を利用して、近所のイタリアンレストランを探して検索結果が出たところに行く、という導線も表れるであろう。
またFacebook exchangeという機能もリリース間近である。これは広告のリアルタイム入札システムであり、他サイトでクリックした広告が、その中に仕込まれたクッキーをベースにして、ユーザー側のPCに足跡を残すことで、Facebook上でも同じ広告をリターゲティング広告として再度表示させる仕組みになる。
このようなFacebookの取り組みは、全てマーケティングファネル上のコンバージョン(商品やサービスの申し込みや購入)に近く、既知の「需要顕在化」に過ぎなかったSNSを「検索」エンジン同様、より消費者の最終決定段階である「購入」に近い位置に立とうとしていることが伺える戦略だ。
【結論】
基本的に、広告投下予算はその施策によって「リスティング」「ディスプレイ広告」「リターゲティング広告」などと分けて管理されているが、今後はそれぞれの財布が1つになり、どの施策がリスティングなのか、ディスプレイ広告なのか、リターゲティングなのかが不明確になるであろう。
GoogleやYahoo!といった検索エンジンのみが享受してきた広告予算があるが、この新しい技術を使った新しいチャネルで、SNS企業や今後登場するであろう「購入」に近いタッチポイントを持つメディア企業が広告予算を山分けするような競合関係になっていくものと予期される。また、TwitterやFacebookといったSNSは、そもそも広告なしで成長したサービスであり、広告に対するユーザーのガードは元々低いといったアドバンテージがあると仮説できる。
GoogleやYahoo!は消費者が「何を探しているのか」を知っており、Amazonや楽天は「誰が、何の商品を探して、いつ購入したのか」を知っている。TwitterやFacebookは「何が好きなのか、それは誰なのか」を知っている。
今後は、消費者の購入と直接結び付くタッチポイントとしての巨大な媒体を保有している企業がどう競合して行くか、というよりは連携して行くかにキーがありそうである。
By秋山尊謙
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